ウエアラブル端末の進化、体の情報はどれぐらい分かるのか
家庭用血圧を測定することが可能になってから、高血圧の診断は進みました。その他の理学的検査や血液検査を採血の侵襲がなくなれば病気の診断に一段の進歩が期待できます。ウエアラブル端末で測定できること、近々測定できそうなことを紹介します。また、その応用方法に関しての問題点と期待を記載します。
既に実現していること

図 1 視線を検知できるアイウェア
3D加速度センサーの搭載により、歩数、睡眠に関してはスマートフォン単体でも測定可能になっています。
歩数を測定できることから、体重、身長を入力することにより消費エネルギーを計算することもできるようになっています。
3点式目電位センサーを搭載することによりまばたきと視線の移動をモニタリングすることでユーザーが集中しているか、落ち着いているか眠気を催しているかなどをとらえることができます。
皮膚上から血液の脈拍を読み取ることで脈拍も測定可能となっています。
実用化をめざしているもの

図 2 心電図や心拍数が測定可能なセンサー
遠赤外線を用いて無侵襲で血糖値を測定することは装置が開発段階にあります。波長10ミクロン付近の遠赤外線はグルコースが強く吸収することから、原理的には高精度のグルコール測定が可能であることが分かっていましたが、遠赤外線は皮膚のごく表面ですべて吸収を受けることから、測定には問題がありました。これに関しては唇の内側に遠赤外線を当てることにより臨床精度を持つ装置です。
24時間血圧計は既に実現しています。しかし、その筐体はまだまだ大きく、24時間以上の測定には向きません。今最小のセンサーとしては横25mm、縦22mm、厚さ4.4mmを胸に貼り付けるものが実現し、心電図も計測可能であることから、医療機器としての申請データを集めているところです。
遠赤外線を利用することにより、脳の血流量の変化を知ることができます。歩行可能な機器も販売が行われていますが、まだ通常生活中に測定する形までには至っていません。
汗には様々な体内の情報を持っています。汗中のナトリウム、ブドウ糖、カリウム、乳酸塩を分析するセンサーが開発途中にあります。この情報と皮膚を通し体温測定により筋肉疲労、脱水症の診断ができる可能性があります。
今後の開発を期待するもの
動脈硬化は超音波を当てることにより計算することができます。これがウエアラブル端末で測定することができれば、三大生活習慣病の高血圧、糖尿病、動脈硬化の診断がウエアラブル端末の24時間データを用いることが可能になります。
しかしながら、超音波発生装置をウエアラブル端末に取り付けるわけにはいきません。脈波を測定することで代替的に測定できる可能性があります。
血糖値などは24時間測定することによって、低血糖になる前にベルを鳴らすなどの低血糖症状を避けることができます。これが可能になれば、更に強力な血糖低下剤の使用が可能になります。
ウエアラブル端末の問題点
現在のスマートフォンでは3D加速度センサーを搭載していることから、睡眠時間、歩数を24時間測定することは可能です。
大きな問題点は精度管理の問題です。個人の診断に用いる場合には用いることができません。精度管理をきちんとするためには医療機器として承認を受ける必要があります。
今のスマートフォン以外でも活動量測定機器が色々発売となっていますが、医療機器として承認を受けているものはないことから研究用にしか用いることができません。
研究用としては、大人数のデータを簡単に入手できることから、疫学調査の精度が上がる可能性があります。
どのような形で身にまとうか
最終的には、メガネかリストバンドの可能性が高いと思います。現在及び近未来に実現する測定を考えると、首から上のデータをとるためにはメガネが最適で、首から下のデータをとるためには手首が最適だと思います。
現在の血糖値の測定方法では、メガネからマイクのようなものを出して、唇に当てることで実現可能になるかもしれません。
【参考資料】 オムロン プレスリリース 貼り付け型研究用ウエアラブル生体センサー http://www.omron.co.jp/press/2015/11/h1105.html
J!NS プレスリリース JINS MEME ACADEMIC PACK 2015年4月下旬提供開始 http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M102040/201411265865/_prw_OR1fl_Vi6aD8F5.pdf
Javey A. et al. Fully integrated wearable sensor arrays for multiplexed in situ perspiration analysis. Nature 529, 509–514 (28 January 2016) doi:10.1038/nature16521 http://www.nature.com/nature/journal/v529/n7587/full/nature16521.html